前回は、留学生のあいだでもすっかり浸透している「めっちゃ」を取り上げました。
今回は、もう一つ、教室で頻繁に耳にする言葉――「やばい」です。
私が若いころ、「やばい」は完全にネガティブな意味でした。
「まずい」「危ない」「大変なことになる」というニュアンス。
テスト前日に勉強していないときの「やばい」、先生に呼び出されたときの「やばい」。
ところが今の学生たちは、
「このケーキ、やばい(=すごくおいしい)」
「その映画、やばかった(=最高だった)」
と、ポジティブな意味でも普通に使います。
では、いったいこの言葉は、いつ、どのように変化したのでしょうか。
もともとの「やばい」
語源には諸説ありますが、有力なのは江戸時代の隠語「やば(厄場)」説。
「やば」は、犯罪者を取り締まる場所や、捕まる危険がある場所を指したとも言われています。
つまり「やばい」は、「危険だ」「まずい」という意味が出発点。
長いあいだ、このネガティブな意味で使われ続けてきました。
転機は1990年代?
「やばい」がポジティブにも使われ始めたのは、1990年代の若者言葉からだと言われています。
若者文化では、しばしば
- 「ひどい」→「すごい」
- 「最悪」→(文脈次第で)「最高」
のように、強い否定語が“強調”の方向へ意味を広げることがあります。
「やばい」も同じ流れで、
- やばい(=危険)
- やばい(=普通ではない)
- やばい(=程度がすごい)
というように、「普通ではないほど強い」という意味へと拡張していきました。
その結果、
「やばいくらいおいしい」
「やばいほど感動した」
のように、“強さ”を表す万能語へと変化したのです。
実際の使用例(今どきのやばい)
🔹 ネガティブ
・宿題忘れた、やばい。
・電車に財布忘れた、やばい。
🔹 ポジティブ
・このドラマ、やばい!(=めちゃくちゃ面白い)
・今日のライブ、やばかった!(=最高だった)
🔹 どちらとも取れる
・その展開、やばいね。
(驚き・感動・不安、文脈次第)
いまや「やばい」は、感情の強さを一言で表す便利ワード。
意味は、ほぼイントネーションと表情で決まります。
留学生にどう説明する?
日本語教師として悩ましいのはここです。
辞書的には「危険だ」「まずい」が基本義。
けれど、実際の会話ではポジティブ用法のほうが多い場面もあります。
私はこう説明しています。
「やばい」は“普通じゃないくらい強い”という意味。
いい意味にも悪い意味にもなります。だから、文脈が大事です。
言葉は生き物。
かつての「やばい」は危険信号でしたが、今は感情の振り幅そのものを表す言葉になりました。
10年後、20年後、この言葉はどう変わっているのでしょうか。
🌿今日のひとこと英会話
“That’s insane!”
直訳は「正気じゃない!」ですが、
英語でもポジティブにもネガティブにも使われる便利な強調表現です。
・That cake is insane!(このケーキ、やばい!)
・That traffic is insane.(この渋滞、やばい…)
英語にも、日本語の「やばい」と似た広がりを持つ言葉があるのは面白いですね。
次は、「エモい」あたりも取り上げてみようかしら。
言葉の変化を追うのは、やっぱりやばい(=最高に面白い)です。


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