草原に立つ強さ ー She stands her ground

読書

『草原のコック・オー・ヴァン』(柴田よしき) を読み終えた。

コック(Coq)は雄鶏、ヴァン(Vin)はワイン。
コック・オー・ヴァンとは、鶏肉のワイン煮込み料理のことだ。タイトルからして、もうおいしそうである。

物語には、都会から高原へやってきてカフェを開く主人公・奈穂のほかに、同じように新しい人生を求めてやってくる青年も登場する。
かつてはロックバンドのギタリストとして人気を博していたが、メンバーとの確執やネットでの誹謗中傷に追い詰められ、祖父母の思い出の地へと流れ着く。

高原の景色は息をのむほど美しい。
けれど自然は決して優しいだけではなく、村人の気質もどこか閉鎖的だ。そのあたりが丁寧に描かれていて、物語に奥行きを与えている。

それにしても、奈穂の芯の強さには感嘆した。

知り合いの一人もいない土地でカフェを開き、最初は疑いの目を向けられながらも、来店した客一人ひとりに誠心誠意向き合う。
少しずつ味方を増やし、信頼を積み重ねていく姿は実に清々しい。

自分や友人へのいわれのない中傷には毅然と対応する。
それでも相手への敬意を失わない。

なんて素敵な大人の女性だろう。
自分にはない強さで、正直うらやましい。

しかし彼女にも弱さがある。
以前の結婚生活でのトラウマから、どうしても「コック・オー・ヴァン」をメニューに加えられない。その伏線が物語の終盤できれいに回収され、読後感はとてもあたたかいものになった。

さて、この本の舞台となった百合が原高原のモデルはどこなのだろう。
作中には松本や小淵沢といった地名が出てくることから、信州のどこかであることは間違いなさそうだ。

高速のインターから少し離れ、近くにはすでに営業していない村営のスキー場があるような場所。
美ヶ原あたりだろうか、と地図を広げてあれこれ想像するのもまた楽しい。

もし信州の高原を訪れる機会があったら、この物語を思い出しながら歩いてみたい。
風の匂いや空の広さの中に、奈穂のカフェがふと現れそうな気がする。


今日のひとこと英会話

She stands her ground.
(彼女は自分の立場をしっかり守る。)

周囲に流されず、でも攻撃的にならず、静かに芯を通す人にぴったりの表現。
奈穂の姿を思い浮かべながら、心に留めておきたい一言だ。ツール

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