なぜ過去形?接客日本語のふしぎ ー It sounds a bit indirect

ことば

最近の言葉づかいで、もう一つ気になっていることがあります。

カフェやレストランで、注文を終えたあとに聞かれるこの一言。

「ご注文は以上でよろしかったでしょうか」

……“よろしかった”でしょうか。
過去形。

いつも、心の中で小さくつぶやいてしまいます。
「今、聞いているのに、なぜ過去形?」


なぜ「よろしかったでしょうか」?

本来であれば、

  • 「ご注文は以上でよろしいでしょうか」
  • 「ご注文は以上でよろしいですか」

でも意味は通じます。

それでも「よろしかったでしょうか」と言うのはなぜでしょう。

これは、いわゆる「丁寧さをやわらかくする過去形」と呼ばれる用法と思われます。

日本語では、過去形にすることで

  • 断定を弱める
  • 相手に判断を委ねるニュアンスを出す
  • 直接性を避ける

という効果が生まれます。

たとえば、

  • 「お名前は何ですか」
  • 「お名前は何でしたか」

後者のほうが、どこか角が取れた印象になります。

また、あえて過去形を使うことで、今この瞬間を直接問い詰めない柔らかさが出ることがあります。


英語の “Could you ~?” と同じ?

英語でも、

  • Can you pass the salt?
  • Could you pass the salt?

と、助動詞を過去形にすることで丁寧な響きになります。

英語の場合、これは「時制」というよりも、
距離を取ることで丁寧さを出す感覚に近い。

日本語の「よろしかったでしょうか」も、どこか似ています。

相手との距離を少し広げることで、
押しつけがましさを避ける。


でも、日本語に昔からあった?

実は、伝統的な敬語体系そのものに
「過去形にすると丁寧になる」というルールがあったわけではありません。

「〜でございました」などの丁寧語はありますが、
「よろしかったでしょうか」のような言い回しは、
比較的新しい接客マニュアル文化の中で広まったと考えられています。

いわゆるマニュアル敬語の一種。

・〜のほう
・〜になります
・〜でよろしかったでしょうか

など、1980年代以降の接客業の標準化とともに広まったと言われています。

本来の文法というより、
「クレームを避けるための配慮」が生んだ日本語、とも言えるかもしれません。


日本語は、直接を避ける言語?

考えてみれば、日本語は

  • 断定を避ける
  • 相手にゆだねる
  • 角を立てない

方向に進化してきた言語です。

「〜と思います」
「〜かもしれません」
「〜ではないでしょうか」

そして「よろしかったでしょうか」。

正しいかどうかとは別に、
そこには日本人らしい「間合い」の文化が見え隠れします。


今日のひとこと英会話

It sounds a bit indirect.
(少し回りくどく聞こえますね。)

言葉は、正しさだけでなく距離感を表すもの。
「よろしかったでしょうか」にも、
そんな日本語らしい気遣いが込められているのかもしれません。

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