『ちょっと仕事やめてくる』を読んで
『ちょっと仕事やめてくる』(北川恵海) を読みました。
タイトルだけはどこかで見かけたことがありましたが、読むのは今回が初めてです。
調べてみると、10年ほど前に映画化もされた作品なのですね。
物語の主人公は、仕事に追い詰められ、心も体も限界に近づいている若い会社員・青山。
毎日の激務に疲れ果て、人生そのものに嫌気がさしていた彼の前に、ある日、突然「ヤマモト」と名乗る不思議な人物が現れます。
その出会いをきっかけに、止まりかけていた彼の時間が少しずつ動き出していく――
そんなお話です。
読んでいて、以前読んだ『運転者』(喜多川泰)を少し思い出しました。
人生に行き詰まった人の前に、ふっと現れる誰か。
現実にはなかなかないことかもしれませんが、ドラマや映画では「こんな人がいてくれたら」と思わず願ってしまうような存在です。
この作品は、完全なファンタジーというより、現実の延長線上にある少し不思議な救いとして描かれていて、その距離感が心地よく感じられました。
若いころ、私自身も激務の中で、終電間際のホームに立ちながら
「もういやだ」
と思ったことがあります。
あの頃の自分に、もし誰かが
「人生って、それほど悪いもんじゃないよ」
と手を差し伸べてくれたら、どんな気持ちになっただろう、と考えました。
私は昔から、「こうあるべき」「こうしなければ」に縛られやすいところがあります。
予定通りにいかないと、自分を責めてしまうことも少なくありません。
子どもができてから、少しは肩の力を抜けるようになった気もしますが、それでもつい、
自分の都合や理想を相手に押しつけてしまうことがあります。
だからこそ、この物語を読みながら思いました。
本当に大切なのは、いつも何かをしてあげることではなく、
普段はそっと見守り、必要なときにそっと手を差し伸べられることなのかもしれない、と。
まだまだ修行中です。
でも、そんなふうに誰かの心に寄り添える人でありたいと、静かに思わせてくれる一冊でした。
今日のWord Note
手を差し伸べる(てをさしのべる)
単に「助ける」という言葉よりも、ずっと能動的で、それでいて押し付けがましくない優しさを感じさせます。
自ら腕を伸ばし、相手の領域へ一歩踏み出す。
その、ためらいを越えた先にある「慈しみ」の形ですね。
英語では reach out a hand / lend a hand に近い表現です。
あるいは、そっと力を貸すニュアンスで “Too lend a hand” とも言いますが、日本語の「差し伸べる」には、相手を敬い、その存在を丸ごと支えようとする謙虚な響きが含まれているように思います。
今日はこの言葉が、いつもより少しあたたかく感じられました。
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