もう一度、旅に出る季節

読書

旅エッセイを読んで

『旅のつばくろ』を読んだ。
作者は沢木耕太郎。

沢木耕太郎といえば、若い頃に読んだ
深夜特急を思い出す。

まだ海外旅行が今ほど手軽ではなかった時代、
異国の街のざわめきや、空気や匂いまで感じられるような描写に、
大いに旅心をかき立てられたものだった。


『旅のつばくろ』は、七十歳を超えた著者が、
JR東日本の雑誌『トランヴェール』に連載していた
日本各地を巡るエッセイをまとめた一冊である。

舞台が日本だからだろうか、
『深夜特急』のような緊張感や高揚感は少ない。

その代わりに、飾り気のない文章の中に、
その土地の空気や季節、そして心の動きが静かに浮かび上がってくる。


印象に残ったのは、著者の旅のしかたである。

事前の下調べをほとんどせず、
行き当たりばったりで歩く。

その場で出会う風景や人を受けとめながら進む旅。

それはきっと、周りの世界に対する感性が鋭い人だからこそできる、
少し高度な旅のしかたなのだろう。


心配性の私は、つい計画を立ててしまう。

けれど、散歩のときくらいは、
あえて知らない道に入ってみる。

曲がった先に、思いがけない景色があると、
それだけで少しうれしくなる。

小さな旅は、すぐそばにあるのかもしれない。


ところで、この本の題名にもなっている「つばくろ」。

これは「つばめ(燕)」の古い呼び名で、
黒い羽の色から「黒(くろ)」がついて「つばくろ」と呼ばれるようになったと言われている。

春になると南から飛んできて、また去っていく鳥。
その姿は、どこか「旅」と重なって見える。


あとがきの中で、著者はこんなことを書いている。

ここ数年、私たちは自由に移動することが難しい時間を過ごしてきた。
だからこそ、自由に移動できることのありがたさに気づいた。
そして今、また少しずつ、外へ出ていける季節が戻ってきたのではないか——と。


そういえば、春から夏へと向かうこの時期、
風のにおいも、どこか軽やかになる。

遠くへ行かなくてもいい。
ほんの少し足をのばすだけでもいい。

また少し、動き出してみようか。
そんな気持ちになる一冊だった。


今日のWord Note

行き当たりばったり(いきあたりばったり/iki atari battari)

意味: 計画を立てず、その場の流れで行動すること

英語では go with the flow / no plan travel


「行き当たりばったり」という言葉には、
少しの不安と、少しの自由が含まれている。

たまにはその自由に身をまかせてみるのも、
悪くないのかもしれない。


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