犬の散歩のとき、私はたいていイヤホンをつけている。
radikoでラジオを聞いたり、podcastを流したり、ときには音楽を聴いたり。
歩いている時間も、どこか「何かしなければ」と思ってしまう。少し貧乏性なのかもしれない。
日本語教員試験の勉強をしていたときも、散歩の時間はよく“ながら勉強”に使っていた。耳から入る言葉は意外と頭に残るもので、そのときは大きな味方だった。
けれど、ある日の朝、なんだか耳をふさぐ感じがうっとうしくなって、イヤホンをつけずに外に出てみた。
すると、いつもより周りの音がくっきりと聞こえる。
遠くの木の上から、「ケッキョ、ケッキョ」と声がした。
ああ、鶯だ。まだ春のはじめで、きれいな「ホーホケキョ」にはなっていない。練習中なのだろう。
音だけではない。
歩いているうちに、ふと甘い香りが漂ってきた。
この、少しねっとりとした濃厚な香りは、沈丁花だ。
普段から景色はよく眺めているつもりだった。けれど、イヤホンをしているときは、意識がどこかに分散しているのかもしれない。
音や香りに気づきながら歩いていると、自分が風景の中にじわっと溶け込んでいくような、不思議な感覚になる。
たまには、こんなふうに歩くのもいいものだ。
こうして文章を書いていて、改めて思った。
日本語には、音や質感を表す言葉が本当にたくさんある。
「くっきり」「ホーホケキョ」「ねっとり」「じわっ」。
言葉を聞くだけで、景色や空気の質感まで感じられる。
そんなところも、日本語の面白さなのだと思う。
今日のWord Note
じわっと(jiwatto)
slowly spreading or gradually filling
何かが少しずつ広がる感じを表す言葉。
温かさや気持ち、風景の中に溶け込んでいくような感覚を表すときにも使われます。
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