「ついでに」という、気づかいの言葉

Beautiful Japanese Words

『一橋桐子(76)の犯罪日記』で出会ったひと言

最近、手に取った『一橋桐子(76)の犯罪日記』。
少し衝撃的なタイトルですが、中身は軽やかで、どこか愛らしい終活小説です。

主人公の桐子さんは76歳。
ひとり暮らしの静かな日常の中で、ふとした瞬間に忍び寄る「社会から切り離されていくような心細さ」が丁寧に描かれています。それは決して他人事ではなく、今の私たちにも通じる、切実で大切な感情のように感じます。

物語の中で、ある一言にふと指が止まりました。
しばらく姿を見せない知人を心配した俳句の会の主催者が、わざわざ自宅まで様子を見に行った際、桐子さんにこう告げる場面です。

「図書館の近くなんで、そのついでに行ってみたんです」

この「ついでに」という響きに、日本語らしい、奥ゆかしい優しさが滲んでいる気がしてなりません。

もしここで「心配だったので、わざわざ行ってきました」と伝えたら、相手はどう思うでしょうか。 きっと感謝とともに、「申し訳ないことをさせてしまった」という、小さな心の負い目を感じてしまうかもしれません。

そこをあえて「ついでに」という言葉で包むことで、 「大したことではありませんから、気にしないでくださいね」 という、相手の心を重くさせないための、柔らかなクッションになるのです。

日常の中でも、私たちは無意識にこの言葉に助けられています。

  • 「駅に行くついでに、出しておきますね」
  • 「買い物のついでだったから、気にしないで」

英語で言えば on the waywhile I’m at it に近い表現ですが、日本語の「ついでに」には、自分の親切をあえて小さく見せることで、相手を気遣うという、美しい謙虚さが宿っているように思います。

ストレートに想いを伝えることも大切ですが、こうした何気ない言葉の端々にこそ、人との距離をやわらげる知恵がある。 直接言わないからこそ、深く伝わる気持ちがある。

そんな日本語の優しさに触れたとき、私の心にも、静かな余韻が残りました。



☕ 今日のフレーズ

ついでに(tsuide-ni)

何か別の用事の流れで、もう一つのことをすること。
けどそれは
「大したことではありませんよ」
という相手への思いやりをやさしく伝える言葉でもあります。


ことばには、意味だけでなく、支える力があります。
オリジナルのショートストーリーを通してレッスンでもこの余韻を味わえたらうれしいです。

Story Word Café|Connect in Japanese Through Stories
Story Word Café|English Phrases Through Stories

コメント

タイトルとURLをコピーしました