食べ物がくれるぬくもり
最近、食べ物が出てくる物語をよく読んでいます。
湯気の立つごはん。
誰かのために作られるお弁当。
台所に差し込むやわらかな光。
不思議なことに、食べ物の物語は、安心して読めるものが多い。
大きな事件が起きなくても、人が生きていくぬくもりが描かれているからでしょうか。
今回読んだのは、『陽だまりランチボックス』(高森美由紀)。
本の簡単な紹介
雪国を舞台に、さまざまな事情を抱えた人々が、小さなお弁当屋さんを通してゆるやかにつながっていく物語。
厳しい自然の中で暮らす人々の現実と、それでも失われない優しさが丁寧に描かれています。
派手な展開があるわけではありません。
けれど、一つひとつの場面が静かに心に残る。
読み終えたあと、深呼吸をしたくなるような一冊でした。
色のことばが、美しい
高森美由紀さんの作品は初めて読みましたが、まず驚いたのが情景描写の豊かさです。
たとえば、色にまつわることば。
- エメラルドグリーンとサファイア色の目
- 白藍色(しらあいいろ)の外壁
- 鴇色(ときいろ)に染まる空
- 銀粉が混じる瑞々しい朝日
ただ「青い」「赤い」と言わない。
色に厚みがあり、温度があり、湿度まで感じられる。
ことばが景色をつくっている、そんな感覚がありました。
いまはあまり見かけない語彙
読んでいて、思わず立ち止まったことばもあります。
- 広縁(ひろえん)
- 翠苔(すいたい)
- 小晦日(こつごもり)
さらりと出てくるけれど、日常生活ではなかなか出会わない語彙。
また、
- 弁える(わきまえる)
- 愁眉を開く
といった、少し古風な表現も印象的でした。
これらのことばが不思議と浮いていないのは、舞台が雪国だからでしょうか。
厳しさと静けさをもつ土地の空気に、よくなじんでいました。
「さめさめさめ」という雨
特に心に残ったのが、雨音の描写。
「さめさめさめ」
と降る雨。
ざあざあ、しとしと、ではない。
どこか冷たく、細く、雪国らしい響きです。
擬音語ひとつで、空気が変わる。
日本語の繊細さを、あらためて感じました。
厳しさの中の清々しさ
物語には、雪国の生活の厳しさも描かれています。
けれど、読後感は不思議と重くない。
凛とした冷気の中に、確かなあたたかさがある。
未来に、ちゃんと希望がある。
読み終えたとき、
「明日も丁寧に暮らしてみよう」と思える、そんな本でした。
今日のひとこと英会話
This story left me feeling warm inside.
(この物語は、心をあたたかくしてくれました。)
“warm inside” は、
物理的な暖かさではなく「心がほっとする」感覚を表す言い方です。
食べ物の物語にも、
雪国の描写にも、
そして人の優しさにもぴったりの表現。
ことばが美しい物語は、
読むことそのものが、ことばの学びになります。
今日の読書もまた、
私に新しい語彙と、静かな希望を手渡してくれました。
さて、次はどんなことばに出会えるでしょうか。
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