チョコレートは「貯古齢糖」?
「週末、何をしましたか?」
日本語学校で、いつものようにそう尋ねたときのことです。
一人の学生が、誇らしげにノートを差し出しました。
ページいっぱいに、びっしりと漢字。
彼は非漢字圏出身。
それなのに、いえ、だからこそでしょうか。
「漢字が好きなんです」と言って、自分でどんどん新しい漢字を調べているのです。
その日、彼が一番うれしそうに教えてくれたのが――
「先生、チョコレートは “貯古齢糖” って書くんですよ」
これは私も初めてお目にかかった当て字です。
貯古齢糖。
なるべく意味を汲み取りながら音を当てはめて漢字を並べる大胆さ。
なんとも楽しそうではありませんか。
そういえば最近読んでいた
畠中恵さんの若様組シリーズにも、当て字がよく登場します。
パンは「麺麭」。
国名は「亜米利加」、ヨーロッパは「欧羅巴」。
文明開化の時代、人々は外来語をどうやって表すかに知恵を絞りました。
そして生まれたのが、こうした当て字文化です。
当て字って、こんなに面白い
よく見かけるものから、トリビア的にご紹介しましょう。
■ 食べ物系
- 貯古齢糖(チョコレート)
- 麺麭(パン)
- 珈琲(コーヒー)
- 麦酒(ビール)
- 硝子(ガラス)
■ 国名・地名系
- 亜米利加(アメリカ)
- 英吉利(イギリス)
- 仏蘭西(フランス)
- 独逸(ドイツ)
- 欧羅巴(ヨーロッパ)
■ 動物系
- 海豚(イルカ)
- 河馬(カバ)
- 麒麟(キリン)
- 駱駝(ラクダ)
■ ちょっと可愛い・面白い系
- 倶楽部(クラブ)
- 自転車(もとは当て字的発想)
- 煙草(タバコ)
- 合羽(カッパ)
音を写したもの。
意味を近づけたもの。
音と意味を両方狙ったもの。
実は当て字にも、いくつかのタイプがあります。
漢字は「輸入品」だった
そもそも漢字は、中国から渡ってきた文字です。
日本語とは構造が違う言語の文字を、
私たちの祖先はどうにかして自分たちの言葉に当てはめました。
万葉仮名もそうです。
音だけを借りて、無理やり(と言っては失礼ですが)日本語を書き表した。
つまり日本語は、最初から「応用」と「実験」の歴史だったのです。
そしてその精神は、
明治の文明開化を経て、チョコレートやパンにも及びました。
そして今。
非漢字圏から来た学生が、
嬉しそうに「貯古齢糖」と書いてみせる。
なんだか、歴史がぐるりと一周したような気がしました。
漢字は“暗記科目”ではない
日本語学習者にとって、漢字は大きな壁です。
けれど、あの学生の目はきらきらしていました。
「覚えなきゃ」ではなく、
「面白いから知りたい」。
その姿を見て、私は改めて思いました。
漢字は、ただの記号ではない。
文化であり、遊びであり、創造の歴史なのだと。
もし、あなたの身の回りにあるカタカナ語を
漢字にしてみるとしたら、どうなりますか?
スマートフォンは?
アイスクリームは?
少しだけ、漢字で遊んでみる。
それだけで、日本語の奥行きが、ぐっと広がる気がします。
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